カルト教団に潜入する。

本日8時前起床。
今日も一日ダラダラするか……。と思っていたら昼に突然来客。
仕事のお客さんであった。

つーかこのお客さん新興宗教の信徒。
どうやら俺が病欠を取っているのを店長から聞きつけやってきたのだった。

つーか店長マジ使えねぇ。
俺が休んでいる間に俺の顧客のフォローをしていたつもりなのだろうが、行き易い顧客=人当たりのいい人の所にしか行っていない様子。
しかも「自分は仕事をしてるんだ」と周りに思わせるために、足しげく外回りに出かけながらも、全てを網羅するわけでなく、そういう楽な所だけ繰り返し通って仕事をしたつもりになっているようである。

そんな単なるディーラーマンを歓迎する家なんて話し相手の欲しいお年寄りか余程の変わりもんだけだっつーの。しかも新興宗教の信者なんて外ヅラは良いに決まってんだから、んなところに足しげく通うな、ボケ! これだから営業経験もなく本社から左遷された人間は……(以下略)。

それでどうやら俺の病気のことやら何やら洗いざらいしゃべったようだ。そのお客さんは「じゃあ私がありがたい教えでその人を治してあげます」とやったようで、どうせ「きっと本人も喜びます」とか言いながら店長はその人に俺の住所と電話番号まで教えたのだった
当の店長は「これでお客様満足度もアップだ」とか思いながら良いことをしたとか思っているに違いない。つくづくおめでたい人間である。

とゆーわけで早速数日前からウチにそのお客さんから唐突に電話がかかっていたのだが、
まがりなりにもお客さんなので邪険にするわけにもいかず、「もう元気になりましたからご心配には及びません」と心配してくれていることに対する礼も一応述べてお茶を濁したのであった。

んで今日である。
いきなりおばちゃん数人と我が家にやってきたお客さん。「お見舞いに来ました、力になります」というスタンスでお祈りさせて欲しいと迫ってくる。雰囲気的に「家に上げて頂戴」というニュアンス。
いきなりだったので断る口実がどうにも浮かばず俺、思わず苦笑。
昼飯中だったのを話すと「じゃあお昼が終わったあとにまた来ます」とおっしゃられる。
つーかまた来られても家に上げるのはなぁ……。などと思っていると、どうやらグループの頭目らしきおばちゃんが「ここから近いし道場に来てもらうのもいいわ」とのお言葉。道場はウチから車で5分ほどの場所にあるらしい。

うむ、マズイ、どう断れば……と固まっていると。

「じゃあ、お食事が終わるころにお電話しますので、それから車で迎えに来ます」
と、さっさと話を進ませ去っていったのだった……。

つーか車で迎えに来る?

そう思った途端に『拉致』の二文字が脳裏に浮かぶ。

やってくる車は絶対に白いライトバンだよ! 家の前に横付けされたその車からスライドドアを開けて現れた屈強な男達が俺をさらって行くんだ。そして上九のサティアンに連れ込まれ、塩酸の池に放り込まれて骨も無くなるに違いない! もしくはスマキにされて謎の工作船に放り込まれた挙句、『北』で洗脳されマツタケを輸入する商社で通訳として働かされるに違いない。んで30年後にウチの両親は俺の顔写真を掲げてアメリカ大統領と面会してアメリカ議会でスピーチなんかしちゃったりするんだよ! きっと!

などとあらぬ妄想に苛まれる。

とゆーわけで、後からかかってきた電話には「自分の車で行きます」と断りを入れたのだった。
約束だけしていかないのも手かとは思ったのだが、もう既に面は割れ、あちらには住所も電話番号も知れている。
抜本的な解決にはならんのである。
つーわけでこうなったら仕方が無い。
ここは腹をくくって俺はカルト教団に潜入するルポライターと己に暗示をかけ、現地に向かうことにしたのだった。まぁ、そうそうあることじゃなし、話のタネにはなるしな。

そんなこんなで現地到着。小さな看板はかかっているが何の変哲も無い民家である。
案内されてそこに上がるとそのまま俺は『道場』に通されたのだった。
つーか壁の一角に怪しげな文言が書かれた掛け軸と小さな仏教っぽい祭壇がある以外は至ってフツーの8畳間。そこでは数人のおばあちゃんが肩をもんでいたり寝そべって腰をもんでもらったりしている。
俺はボスらしきおばちゃんにつき従い、掛け軸の前に正座して礼をする、神道式みたいなそうでないようなテキトーな型であった。
んで俺はその後、そのおばちゃんの『霊的パワー』によって身体を治してもらったのだった。
つーか胡坐かいて座っている俺の後ろでMrマリックのまねをしているだけにしか見えなかったのだが……。む、ハンドパワーです。
ハンドパワーを受けている間はおばあちゃん達から神様の『なんたらさま』(名前忘れた)の力のお陰で病気が治ったとか、80過ぎても今も元気なのよ~、という話を聞かされ続ける。
皆さん人がよさそうでニコニコ始終ご機嫌である。とゆーかほんと人の良さそうな人たちばっか。
まぁ、つまり、オレオレ詐欺被害者予備軍な方々ばかりなわけであって、『ああ、こういう人たちが新興宗教に引っかかるんだな』と妙に合点がいったのだった。
まぁいっか、当人達にとってはこれはこれで幸せなわけだし……。

ハンドパワーが終わったあと、調子を聞かれるも、そんな人の良さそうなおばあちゃん達の視線を感じるにつけ、「いえ、サッパリです」などとは口が裂けても言えないのだった。

ハンドパワーが終わるとお茶会がはじまる。雰囲気的にはおばちゃんの井戸端会議である。まぁ『なんたらさま』のおかげで救われたのよ~、という話がほとんどではあったが。
それでお開きとなり、俺は現場を後にした。


う~ん、ある意味期待はずれではあった。個人的には真っ白な部屋の中で壁に向かって膝を抱えながら独り言をぶつぶつ唱えているヘッドギアの男とか、必死に空中浮遊しようと飛び跳ねているいっちゃった人とかのふしぎワンダーランドを想像していたのだが、そんなものとはかけ離れたユルい空間である。
まぁ、深入りすれば金を要求されたり色々あるんだろうがな……。

とゆーわけで実態をつかむべく、家に帰ってからネットで情報収集してみる。
なんかまぁ、いい評判なんて無いわけで……。新興宗教なんてみんなそんなもんだよな。創価学会なんてネットでボロクソなわけだし。まぁ、そんなもんだ。
とゆーわけで大体不評なわけなのだが、その中でも特にボロクソに書いていたサイトがあった。しかも詳しい教義にまでいちいち突っ込みを入れて「これは邪法である!」と真っ向否定。ちなみに色んな新興宗教も同じようにいちいちあげつらってバッサリやっていて、やたらと鼻息が荒い。この熱意はどこから来るんだ? とサイトの管理者を見てみると日蓮正宗とあり、妙に納得してしまったのだった……。

う~ん、宗教の世界も大変だね。

そんなこんなで「あ~、ユルい宗教だったなぁ。これじゃあ、カルト教団のルポにもならん」とか思いながら惰性でネットを徘徊。

するとそこは実際にフランスでカルト集団172団体の中に選ばれていると知る。

……図らずもマジでカルト集団に潜入してしまった俺なのだった。
あとで冷や汗をかいたのは言うまでも無い。



あ、しまった『なんたらさま』に店長をクビにして下さいとお願いするの忘れてた……。